『ニシムクサムライ、ヒガシムクアタシ。』no.3

 何でもないということは、逆に言うと何にでもなれる可能性があるということだ。そして、あたしは何かになるために大学に進学することになっていた。
 あぁ、何て言ったら一番しっくりくるのか分からないけど、その時あたしは、あたしの未来に希望と絶望の二つを同じくらい感じていたんだと思う。とにかくそのふわふわどろどろした精神状態を乗り越えたかったんだと思う。
 そしてあたしが思いついた解決策は、破壊だった。

 破壊。あたしは以前から何かを壊したがる癖があった。その何かはおもちゃであったり、友人関係であったり、恋愛関係であったりした。人とある程度以上に仲良くなると、あたしは最低な自分を演出してその人を遠ざけた。もちろんそんなことしたくてしてるわけじゃない。してしまうのだ。
 きっと、何かがあたしにとって代わるのが怖かったんだろう。自分が成長したり変ったりするのが、自分を失うことのように思えたのだ。
 そして今回突然家を飛び出したのも、同じような動機からだった。うーん、もう一つ言っておくと、いやおうなく変ってゆく自分もそうだが、変らない家というものも怖くなっていたのかもしれない。

 今思うとあたしの破壊は後ろ向きな行動だったとも言える。だけど、その時は堪らなく怖かったのだ。未来が何となく見えてしまう状態に入ること、誰かが走ったレールに乗ってしまうこと、自分が何かに紛れてしまうこと。

 あたしは何にでもなれる―いつまでもそう信じていたかった。自分自身の体で、世界を感じていたかった。自分で自分の可能性を見てみたかった。

 しかし、動機や理由なんてものは実際のところ何の役に立たないのだ。この先の物語にこの動機は全く関係してこない。大体ここであたしが書いてみたものだって、後付けのようなものだ。

 とにもかくにも、賽は投げられた。後戻りはしたくない。
 車にはパスポート、保険証、預金通帳(お金はあまり入ってなかった)、現金10万円(バイトで貯めていた分だ。親のお金じゃない。ここ重要!)、寝袋、食べ物、水・・・考えられる限り必要なもの全部詰め込んでいた。あ、免許証も。
 突発的思いつきではあったけど、結構計画的だったのだ。家出を思いついてから一週間かけて準備したんだもの。
だから、無事家を抜け出せた時は「感無量です、最高です!」って感じだった。

 あたしの物語はここから始まる。やっと始まる。今までの人生はほんの序章だった。自信を持ってそう言える。

to be continued...