勢いよく、だよ。

廃墟のようなビルの階段、踊り場にいる。知らない男二人と一緒にいる。
一人はどうやら死にたいらしい。もう一人の男とあたしは必死に彼を説得している。男が手摺りから身を乗り出しているのをあたしは必死で掴んで引き戻そうとしている。
「ね、ほらちょっと見て。こうやればいいんじゃないかな」
もう一人の男がモップを手に持って言う。
「ほら、見てて」
男はモップの先、つまりぞうきんの部分をパッと取って、ポーンと宙に放り上げる。
「え?」
死にたい男は一瞬力を抜き、あたしは男と一緒に階段の内側へ倒れ込んだ。
「ほらほら。ポーンってさ。いいと思うんだよね」
モップ男は次々とぞうきんを放り上げていく。死にたい男は不思議そうな顔をしている。
「ほらほら、お前もやってみろよ」
モップは死にたいにモップを渡す。死にたいはおずおずとぞうきんを取り外し、
「えいっ」
とそれを階段の外へ投げる。
「もっと高く。勢いよく、だよ」
「・・・」
もう一度死にたいが投げる。今度は空に向って投げる。
「えいっ」
「そうそう!そんな風にさ」
ぞうきんはどんどん空に打ち上げられていく。あたしはぞうきんから出る腐った水の臭いが気になっている。


「ほらほらほら!」
だんだんモップ男はエキサイトしていく。ぴょんぴょん跳ね回り、ついには階段を駆け下りていく。あたしたちも彼を追って階段を駆け下りる。
「わはは!ひゃっほー!今度は俺が飛んだらいいんじゃないか!?」
目をギラギラさせて男は叫ぶ。ビルは高台にあった。フェンスの下10メートル先は公園になっている。男はフェンスにぶつかるまで走り、ぶつかってフェンスはガッシャーン!と大きな音をたてる。
「なぁ!?」
と振り返る男はカラカラと笑う。
さっきまで死にたかった男とあたしは顔を見合わせ、「どうしようか」と目で会話をする。