何でもない

氷点下。での話。

まだ時代は始まっていない。 もう時代は始まっている。 もう時代は始まっていない。 まだ時代は始まっている。 ドウデモイイ氏はまばたきもせず、ソンナコトナイ氏はあくびをしたりしなかったり。 決して融けない氷の下で、人々は生活していた。 そこでは毎…

雨が降っている。

今日は朝から雨が降っていた。 あたしはベッドの上で、さかさまになって窓の外を見ていた。 下から上に、雨がこぼれていた。 テレビは映らなくなっていた。アンテナの故障? 砂嵐の画面。外界と内界がコンタクトを取ろうとしている。 昨日の夜中から、トムウ…

前髪が揃っている。

彼女の前髪はいつも綺麗に揃えてあった。 スウィング。スウィング。 彼女の前髪は、いつもきちんと行儀よく揺れていた。 あたしはそれが面白くなくて、彼女の頬をぶった。 「あたしの男を盗りやがってこのアマ!なめんなよ!」 そう言って、思い切りぶった。…

さかむけ

あたし最近指のさかむけがひどいのよね。彼女は言って、僕の方を見た。親不孝なんじゃない?僕は言って、彼女の方を見た。親不孝なのかも。彼女は自分の指を見つめて、言った。冷たい響きだった。 僕らは裸のまま、 タバコの煙に巻かれている。寂しくて、空…

意味の無い話、の話。

今度煙の出ている煙突から飛び出してきたら、殺すよ。 猫に言われて君は頷く。 本当はそんなこと思ってない。 今度リンゴの木を降って登校したら、殺すよ。 猿に言われて君は頷く。 分かった、分かったよ。 もうそろそろ流星群の通る時間だから、殺すね。 鯨…

夢 file7-no.12

多分卒業式だ。君は卒業式の中にいる。周りは奇妙に歪んでいて、ぼやぼやしているけれど、これは卒業式。 君は退屈だと感じる。だって、ステージ上の校長先生の話はまるで火星からの通信みたいにブレているし、君は3年B組だかC組だか知らないがとにかくナン…

ヌードモデル

鏡の中の自分を見て、あなたは溜息を漏らす。なんて醜い形なんだ。と。 堅いものと柔らかいものを薄い皮で包んだ、奇妙な凹凸のある長方形の四隅からは同じように得体の知れないものでできたグロテスクな突起がひょろひょろと伸びて、先割れしている。あなた…

三文詩

久しぶりにハイヒールを履くと、足がマメだらけになって、痛くて痛くてとにかく庇いながらの変な歩き方をしていると、足首まで変に凝ってきてあまりに辛いので、靴はもう脱いで、トイレに行った靴でいろんな人が歩いた道を、酔っ払ったおっちゃんがゲロ吐い…

レベッカ

安いワインを車のボンネットに垂らす。 男は水を買いに行った。あたしが買いに行かせた。アルコールでは喉が渇いて仕方ないのだ。 中指のガラス玉がきらきら光って綺麗だ。 朦朧とした頭であたしは何年も前、学校の屋上で見た夕日を思い出していた。あれは一…

勢いよく、だよ。

廃墟のようなビルの階段、踊り場にいる。知らない男二人と一緒にいる。 一人はどうやら死にたいらしい。もう一人の男とあたしは必死に彼を説得している。男が手摺りから身を乗り出しているのをあたしは必死で掴んで引き戻そうとしている。 「ね、ほらちょっ…

スピード

崖の上を走っている。空は鈍色で、パステルカラーの雲が流れる。 海にはイルカが走っている。こっちに走ってくる。 猛スピードで駆け抜けた先で、イルカとぶつかる。 「来るよ。来るよ」 とイルカが言う。あたしの肩に頭を擦りつけながら、震える声で言う。…

未来都市ジェニー

また同じ夢を見ていた。そしてまた完結しない。 ベッドから身体を起こし、男は時計を見る。17-1122-3.77だ。 あと0.13タルクしたら部屋を出よう。どうせ時間なんて関係ない仕事なのだ。 男は窓を開け、煙草に火を点ける。窓から見えるジェニーはすでに夜の顔を…

ハインツ

頭の中に入り込んできた。ハインツ。その時何をしていたのかというと。 一服して、眠くなって、風呂にも入らなきゃいけないなぁ、明日は何着て行こうかなぁと思いながらベッドに寝転んで、けだるいまどろみの中、 「自己憐憫という名の自己嫌悪。それとも自…

名前

会社の七階非常階段は僕の休憩所だ。独りになりたくなるといつもここで一服する。空が見えるし、何より車や人の音がしないのだ。聞こえてくるのは工場の規則的なガチャンガチャンという音だけ。生活の音は機械音に吸い込まれてしまう。 それは心地良い混沌で…

Phone number

大学に入って初めてのバイト先に、素敵な女の子がいた。あたしはその子が好きだった。 目の周りは真っ黒いアイライン。髪はエクステで背中半分が隠れるくらいあった(彼女はそれを「ヅラ」と呼んでいた)。そして健康的な太り方をしていた。 あたしは彼女より…

りんご太郎

昔々、あるところにりんご太郎という若者がおりました。 りんご太郎は肉食で、好物は牛タンでした。 ではなぜりんご太郎という名前なのか。それはりんご太郎の母親が草食で、りんごが大好きだったからです。りんご太郎は自分の名前と内面のギャップに悩んだ…

アイスココア

アイスココアとメンソールでチョコミント味だ。 頭はいつも間違える。 言葉はいつもあやふやだ。 心はいつも疑っている。 身体はただ瞬間に正直だ。 ずっとずっと確かなことは「在った」ということ。 ただ、アイスココアとメンソールでチョコミントの味がし…

『王国の崩壊』

王国が滅びる時。そこには腐敗があり、侵略があり、革命がある。 そして、血も汗も涙も飲み込む時間の渦が突如出現し、物凄い勢いで空間を占拠してしまう。 その渦は人々を切り刻みながら次第に終息してゆき、最後にはしゃぼんの泡が弾けるように消えてしま…

『宇宙の消滅』

人を殺してしまった。 どうやって殺したのかは全く覚えていなかった。気が付いたらあたしは一人で狭いアパートの一室に立っていて、目の前にはさっきまで愛していたはずの男が、今はただのモノになってころがっていた。 そのとなりではテレビが点けっぱなし…