レベッカ

安いワインを車のボンネットに垂らす。
男は水を買いに行った。あたしが買いに行かせた。アルコールでは喉が渇いて仕方ないのだ。
中指のガラス玉がきらきら光って綺麗だ。
朦朧とした頭であたしは何年も前、学校の屋上で見た夕日を思い出していた。あれは一生忘れられない。ドラマチックでロマンチックで、まるで金魚が鉢の中から飛び出して苦しくなる息のなか見る土にまみれた太陽みたいだった。


脳味噌はレベッカの頭蓋骨から抜け出した。レベッカは何も考えない。
レベッカは仮名。知らない女。あたしじゃない、知らない女。


レベッカはワインのつくるゆるい曲線を眺めてケラケラ笑った。
あー、あたしは今最高に最低だ。最低に最高だ。
辺りは夜の輝きに満ちている。それはマガイモノで、純粋。ネオンは人を、ものを、鮮やかに照らし出す。
「とてもファニーな気分だな」


男はもう帰ってこないだろう。この辺では水を売っている店はイコール女を売っている店なのだ。


レベッカはいつも騙されている。表面的にはいつも疑っているので、彼女自身、自分はかなり用心深いと思っているが、深層心理では全てを信じている。裏切られたと分かっても、コアではまだ信じている。だれもあたしを騙したり、ただ利用したりしない。そう信じて疑わない。


そんな信心だけを残して、彼女の他の部分は夜に消えてゆく。腐ったワインが洗い流す。


あたしは彼女を徹底的に傷付けてやりたい。もう誰も信じられなくなるくらいに打ちのめしてやりたい。これは親切心なのだ。
どうか彼女の明日が本物の幸せでありますように。