未来都市ジェニー

また同じ夢を見ていた。そしてまた完結しない。
ベッドから身体を起こし、男は時計を見る。17-1122-3.77だ。
あと0.13タルクしたら部屋を出よう。どうせ時間なんて関係ない仕事なのだ。


男は窓を開け、煙草に火を点ける。窓から見えるジェニーはすでに夜の顔をしている。
俺の街、愛するジェニー。
ジェニーに煙を吐きかけると、男はレミントンを磨き、弾を込め、サイレンサーを取り付ける。そしてそれを自分のこめかみに当て、「バーン」とつぶやく。
これは男の習慣だった。磨く。セットする。バーン。だ。


それから1タルク後、男は魚の群れの中にいた。右も左も上も、魚だらけだ。
「ちょっ」男が舌打ちをする。キラキラ光る小魚がジャマだ。男の狙いは黒光りする深海魚なのだ。
ジェニーの透明なチューブは光に満ちている。
綺麗だった。
男は空を見上げた。正確には上方を。ジェニーに空は無い。空の絵があるだけだ。


おや?
女の子だ。赤いワンピースを着た10歳くらいの女の子が飛んでいる。
なんてこった、俺にもそろそろお迎えが来たか・・・なんて思って、独り苦笑する。
女の子は空に向って手を伸ばし、一心に何かを見つめたまま飛んでいる。俺のことなんか見てないだろうな。そもそも彼女はジェニーすら見ていないみたいだ。
どこかでこんな姿勢で飛ぶ人間を見たな。何だったかな。そいつも赤い服を着ていた気がする。飛ぶ人間は赤い服が好きらしい。
女の子の描いた風がこちらまで降りてくる。それは花の香りがした。それに土の匂い。湿った、土の、匂い。


男は銃を降ろし、それを地面に埋めた。
埋まりきらない銃口から、花が咲くような気がした。


その時、大きな黒い影がチューブ上方を横切った。


ジェニーは今日も拡大を続ける。ジェニーは今日も、健康そのもの。