『宇宙の消滅』

 人を殺してしまった。

 どうやって殺したのかは全く覚えていなかった。気が付いたらあたしは一人で狭いアパートの一室に立っていて、目の前にはさっきまで愛していたはずの男が、今はただのモノになってころがっていた。
 そのとなりではテレビが点けっぱなしになっていた。

 『・・・臨時ニュースをお伝えします。たった今、銀河・NGC38209が消滅しました。原因は今のところ分かっておりませんが、このことが地球に与える影響は何もありません。繰り返します。・・・・』

 あたしはそれを聞きながら、死体をぼんやり見ていた。なんだ、宇宙を一つ消すなんて簡単なことだったんだ。全ては『何もありません。』で終わってしまう。あたしは、あたしの過去を笑った。そして、その過去から消えた宇宙を想って笑った。
 「何もありません。何もありません。」
 呪文のように繰り返しながら、乱れた衣服を正し、靴を履いた。


後ろでテレビの中のネクタイが、「では、次のニュースです。」と言った。