スピード

崖の上を走っている。空は鈍色で、パステルカラーの雲が流れる。
海にはイルカが走っている。こっちに走ってくる。
猛スピードで駆け抜けた先で、イルカとぶつかる。
「来るよ。来るよ」
とイルカが言う。あたしの肩に頭を擦りつけながら、震える声で言う。イルカの頭はツルツル、ひんやりしている。
山は色を変えながら動いている。それはとてもゆっくりなようで、実は空よりも速い。
あたしは立ち止まってしまったので、重力と戦っている。戦いながらイルカを抱きしめている。
「何が?何が来るって?」
「破壊が」
海はもう海じゃない。砂のかたまりだった。
あたしは砂浜でトーキョータワーくらいの高さはある大波を待っている。虹色の砂のかたまりがスローモーションで迫る。
キリンが空を駆け、星がシャワーのように落ちている。
あたしはカメラを構え、走っている。


キーーーーーーーン


飛行機が飛び立つので、耳鳴りがひどい。


いつのまにかつぶっていた目を開けると、あたしは空港の展望デッキにいた。
タカシがイタリアに発つのは今日。何時なのかは知らないのだ。